2014年2月3日月曜日

神戸芸術工科大学

神戸芸術工科大学 先端芸術学部 映像表現学科 アニメコースについて


 神戸芸術工科大学アニメコースで専任教授をしています。
 とはいえ、なにしろ自宅から大学まで5時間かかるので、遠方まで通うのが厳しくなり、可愛い学生たちに会えなくなるのは寂しい限りですが、今期限りで神戸とはお別れです。
 なんだかんだで8年間神戸芸術工科大学で働きました。

 教員の仕事は、精華大学の非常勤講師や東京工芸大学の特別講師、ほか専門学校では東京から大阪、神戸まで特別講義や特別演習をしたことは10校くらいあると思います。
 どこの学生も楽しく話を聞いてくれ、熱心に絵を描いてくれました。おおむねは(笑)

 描いて教える演習は20名を超えると厳しいです。学生一人あたりにかけられる時間が足りないのです。

 ある学校へ教えに行ったとき驚いたのは、学生が当たり前のように遅刻するということでした。すでに授業が始まっているのに30分くらい遅れてやってきて、黙って教室に入ってくる。なぜそれが困るかと言えば、最初の説明を聞いていないため、演習でなにをどうしたらよいか本人がわからないことです。こちらもその学生のためだけに、もう一度最初から説明しなければなりません。時間と労力の大いなる無駄です。

 自分の学生なら最初からきちんと理解してもらうのですが、他校の学生の場合、しつけをしている時間がありません。そこで考えたのは単位を人質に取るという、いささか荒っぽい方法でした。「時間厳守 遅刻は欠席とみなす。欠席が複数回とカウントされた場合、単位は出さない」と宣言した翌日から、誰も一度も遅刻しませんでした。

 要するに学生は「授業開始時間」というものを甘く見ているだけなのだと理解しました。やってみれば全員きっちり出来るのですから。

 どころが、最初に神戸芸術工科大学で授業したとき、学部の一期生がまったく同じことをしてくれました。平気で遅刻してくる学生がいたのですね。神戸芸術工科大学で神村が持っている授業はひとつを除いてすべて演習です。演習に遅れてこられると困る理由は先に書いた通り。

 そしてもうひとつ、わたしは遅刻が嫌いです。真剣に説明していても、途中でドアを開けて黙って入ってくる学生を見るとがっかりです。
「あなたたち、親御さんが高い学費を払ってくれている元を取りなさい!」と思います。

 神戸芸術工科大学は芸術大学です。そこに「工科」とついている場合、一般大学と比べると、学生に対する教員の数が大幅に増えます。つまり神戸芸術工科大学は少人数制の芸術大学なのですね。だからこそわたしはこの大学でなら教えられると思ったのです。

 少人数制教育がどういうことかというと、教員の人件費がかさむということです。ご存じない方もおられるでしょうから、ざっくり説明しますと、一般大学の年間学費が100万円なら、美術芸術系の大学の学費はその1.5倍から2倍になるということです。
 ですから学生には、高い学費の元を取れ、と再度言いたい。遅刻などもってのほか。

 欠席も病気などは仕方がないにせよ、基本的にNGです。アニメーション制作を一から順を追って教えていく授業で、たびたび欠席されると次の授業についてこられません。演習は予習が出来ませんので、あとから自力で追いつくことがむずかしいのです。

 わたしは神戸芸術工科大学アニメコースの学生に、どうしたらやる気を出してもらえるか考えました。教員が真剣勝負で望むのは基本です。教員の真剣度を学生は感じ取ります。誰もやる気のない教員に教わりたくはないでしょう。

 あとはやはり遅刻をなくすことが重要だと考えました。だらだら遅刻してくる学生を放置しておけば、それがクラスに伝染します。したがってアニメコースは「遅刻不可」という決まりを掲げました。アニメコースのシラバスは
・出席率80%未満不可評価。
・課題提出率100%未満不可評価。
・期限過ぎの課題提出は不可評価。
・遅刻は1分でも欠席あつかいとする。
となっています。
 これを厳しいと思いますか? 神戸芸術工科大学アニメコースの学生は全員この規則を守っていますよ。大学生といえばもう大人ですから、これくらい守れなくてどうします。

 出席率は90%未満でもよいのではないかと思っていますが、このシラバスに書かれている規則は、アニメコースでは「マジ」ですから。本気で厳格に適用しており、1回生の初回授業で、遅刻に言い訳の余地はないことを実体験できます。

  神村としては、1回生の時は規則に厳しい先生をわざと演じているのでした。1年でしつけができると、その後はみな普通に規則を厳守してくれます。まったく手がかかりません。

 課題をすべて期限内に提出するというのは、確実に実力アップにつながっています。1回生から2回生のあいだに基礎力をしっかり身につけた学生は、さらに3回生でのゼミ1年間でとても力をつけてくれます。

 3回生になると就活が控えていますから、学生と頻繁に相談したり助言したり、また新しい技術を個人個人にあった方法で細かく教えるようになるため、教員と学生の距離もぐっと縮まります。
 神村としては2回生の後期くらいから、学生ひとりひとりについて、仕事の向き不向きを考え、学生とも相談するようになります。学生がなりたいと思っている職種が、必ずしもその学生の長所をいかすことにならない場合も多々あります。

「学生が卒業後、一番幸せになれることはなにか」というのが神村のいつも考えていることです。そのため「アニメーターになりたいと思っています」という学生にはっきり「アニメーターとしてやっていくのは無理だと思う」ということもあります。仮にどこかの会社でアニメーターになったとしても、その学生の長所はいかされず、つらい思いをしただけで、泣いて神戸に帰ってくるだけです。
 それで果たしてよいのでしょうか。しなくともよい、つらい経験をしただけではないですか。

 わたしはアニメコースの学生が、すべてアニメ業界へ就職する必要はないと思っています。自力でゲーム会社の内定を取ってきた学生もいました。一般企業へ就職する学生もいます。

 学生が自分の長所を活かせる場所。それが一番重要です。学生が将来幸せになってくれることをいつも一番に考えて、3回生、4回生と話し合っています。

 見ていないように思うでしょうが、わたしは学生が入試に来たときから、ずっと細かいところも見ています。少人数制教育の神戸芸術工科大学だからできることです。
 わたしが学生に望むことはただひとつ。「幸せな人生を送ってほしい」ということです。

 東京の大学には全国から学生が集まりますが、神戸芸術工科大学は地方の大学なので、学生は市内県内関西圏の学生が多いです。その分、神戸芸術工科大学アニメコースの学生は、素直でまじめでいい子がほとんどです。

 みんな、きっと幸せになってください。神村からのおねがいです。




2014年2月1日土曜日

アニメはなぜ学長賞を取れないか

神戸芸術工科大学 映像表現学科 アニメコース 畑島さん、富坂さん、清水さんへ

 卒業制作の「From Amco」は本当によくがんばりました。3人をギュッとしてナデナデしてあげたいくらいです。芸工大アニメ史上最高の作品です(歴史が短いもので)。

 神村も、アニメコース副査の先生も当然、映像表現学科第1位の学長賞に推しました。しかし多数決で映画に負けました。映画も秀作でしたのでここは拍手を送りたいと思います。とはいえ、やはりアニメーターとしてわたしは、技術と内容において「From Amco」が負けていると思っているわけではないのです。
「From Amco」が学長賞をとれなければ、アニメが学長賞をとることはほぼ永久にむずかしいとわたしは考えます。アニメコースの作画2トップと仕上げのトップが3人がかりで全力で作った作品です。これだけのメンバーがそろうことは今後もそうそう期待できないでしょう。


 では、なぜ「From Amco」が学長賞を取れないかといえば、それにはアニメであるという理由が第一にあげられると思います。審査の過程を見ながらずっと考えていたのですが、アニメは尺も短いため、絵描きである学生にとって、計算されたシナリオというものは現時点ではなかなかむずかしいと思います。
 アニメコース副査の先生のように監督でもあり脚本家としての仕事もしているアニメーターは別ですが、そこまでのキャリアを積むには長い時間がかかります。
 さらにキャラクターの動きを絵にすることにほとんどの労力を注ぐため、作品全体としての出来がわかりづらいこともあげられます。

 映画はしっかりしたシナリオで、長尺ものをプロの俳優を使って作った場合、作り手の思いを観客にきちんと伝えることが可能です。しかし、アニメでは1コマ1コマ絵を描いていくために、正しく動かそうとするだけでたいへんな労力と高い技術を要求されます。

「From Amco」はアイドルのダンスシーンが多い作品です。ダンスはアニメーターにとって、とくに技術を要求されるむずかしい動きです。神村もスポッティングシートに合わせて作るOP・EDやダンスシーンを、おそらくほかのアニメーターより多く担当し原画にしてきましたが、ワルツはまだしも、速いダンスシーンは動きを描く難しさで群を抜いています。

 まずポイントとなる絵=原画枚数を非常に多く必要とすること。神村の経験では、ダンスシーンは2K中1ていどの原画を描くことになります。また、こちらは絵描きでダンサーではありませんので、ダンスを描くときはプロダンサーのじっさいのダンスをそのまま描き写すしかないのがプロクォリティ画面を作る場合の当然性です。

 わたしたちプロのアニメーターは、実写をみて物理的に不自然な動きに気づく観察力を長い訓練によって身につけています。
 たとえば忍者が高所へ飛び上がる例をあげますと、実写ではつり上げた上でCG処理を施すか、ヒーロー戦隊ものテレビなど、あまり時間と予算に余裕のないものは逆撮を用いています。ヒーローの衣装はわりあいフォロースルーする部分がないデザインが多いのでアクション俳優が練習すれば違和感がありません。

 それでもアニメーターが逆撮を見ると筋肉の使い方や体それぞれの部分の動き順など、細かいところでその動きが物理法則に合わないものであることに気づきます。
「宇宙刑事ギャバン」あたりから戦隊ものを数多く見て、ギャバンでは原画の勉強のためにアクション部分でコマ送りを繰り返したので、わたしはそのあたりはわりとよく気づく方だと思います。
 昨今のフルCGファンタジー映画のように髪の毛1本まで物理法則にそって作られたものは「CGだ」ということしかわかりませんが。


 そのプロアニメーターの観察力をもってしても、ダンスは実写をノーマルスピードで何度見ても、必要な原画ポイントがわかりません。とくに速いダンスの場合にそれが顕著です。「From Amco」も速いダンスの部類です。

 大まかにどのような振り付けであるかはわかるのですが、ダンサーがその動きにキレを出すため、あるいは動きをより速く大きく美しく表現するのに必要とするわずかな予備動作は「なにか動いている」ことまでは見えますが、次の動きに行く前にいったいどのようなタイミングで、どれほどの幅の動きを、どういった角度で付けているのかは、コマ送りしないと明確に絵にすることはできません。

 なにしろ技術の高いダンサーになればなるほど、身体のすべての部分をすべて別のタイミングで動かすということを、おそらく考える以前に天性のようにやってのけるからです。だからこそ高度なダンスは息をのむほど美しい。(広義ではバレエなど、すべての舞踊が含まれると思います)

 人間の身体で極限までの美しさを表現するテクニックを持つのがダンサーという人たちだと思います。

 極度にむずかしいそのダンスに、あなたたち3人は挑戦しました。卒制主査の神村としては、ほかの班であればダンス主体のストーリーはおそらく認めずに、ほかの題材を勧めたと思います。しかしあなたたちには挑戦してみてもらう価値があると思いました。
 これはわたしの推測ですが、それは副査もおなじ考えだったでしょう。副査も脚本家であり、監督であり、キャラクターデザイナーであり、その前に優秀な作画監督なのですから、あなたたちが描いたダンスを見てみたいと思ったのではないでしょうか。

 神村と副査は、あなたたちに、ダンスはスポッティングシートを取らなければできないことや、目に見えない予備動作を入れなければならないことなど、本当に初歩的はことは教えましたが、じっさいに上がってきた原画はよほどのことがないかぎり直すことはしませんでした。なおしたとしても50枚の原画の中に1枚ラフを加えて説明する程度の直しです。
 それは卒制があなたたち自身の力で作るものだからです。あなたたちが、自身の現在の力量をもって研究していくものが卒業制作であり卒業研究だからです。

 画面で見ると、予想とちがったところがたくさんあったと思います。しかし、うまくいかない部分があったとしても、あなたたちが描いたダンスシーンの原画は、学生としては最高水準の出来でした。画面ではそこまでには見えませんが、原画を見るとわかります。
 そこまでがんばった原画は、わたしたちプロである教員が直すべきではないでしょう。そのままテレビで使って問題ない出来のカットもありました。
 3人でほんとうによくがんばりました。動きに多少問題があったとしても、胸をはってよい作品です。

 アニメコースはいままで2位である学科賞までは推薦したことがありますが、1位である学長賞に値する作品はできていないという理由で、コースとして学長賞にアニメ作品を推薦したことはありませんでした。
 推薦に値する作品が現れるのを8年間待っていたのです。そうしてようやく現れた学長賞候補が「From Amco」でした。

 そこまで待ち、満を持して学長賞候補に推薦した「From Amco」がなぜ学長賞を取れないかといえば、手描きアニメーションの技術がむずかしすぎて、自身がそれなりの技術を持つプロの手描きアニメーターでなければ、作品の水準がわかりづらいという一点につきるのではないかというのが神村の結論です。

 お疲れ様。ナデナデ(^^)/