2014年9月27日土曜日

原画が仕事を失う時

●原画が仕事を失う時

 現状は、「駆け出し」でも、「新人ですがフリーです」でも、作監がたまりかね「この人はもう使わないで」と制作さんに訴える原画でも、仕事に困ることはまったくない。
 需要と供給のバランスが、極端にアニメーター有利な状況だからだ。

(動画さんについては、スケジュールの悪化から社内の動画を手空きにしても海外へ出さざるをえない状況が発生し続けており、潤沢にあるはずの動画仕事が国内の動画さんには回ってこないという問題が10年以上続いている)

 アニメーションの制作本数は、いくらなんでももう限界だろうと言われ続けているが、番組改編時期にフタを開けてみるとさらに作品本数が増えていたりするという、常識的には考えられない事態が起こっている。
 どうやれば、これ以上の作品が制作できるのか、ミステリーでありミラクルでもある。

 だから原画になってから今まで、仕事が多すぎて困ったことはあっても、仕事がなくて困った経験を持つ人は、少なくとも35歳くらいまでの原画にはいないと思う。

 だが、過去には作品数が激減し、原画の仕事もまた激減した時期が2回あった。2度あることは3度ある。今は想像できないが、原画アニメーターにとって、ある日、仕事がなくなる日は必ずまたやってくる。絶対に。

 アニメーターだって義務教育で歴史を学んでいるからわかると思うけれど、ローマ帝国も世界最大規模のモンゴル帝国もいずれ滅びるのであって、永遠に続く「なにか」なんてないんです。
 断り切れないほど原画の依頼がある時期が今ならば、次に来るのは仕事に困る時期ですね。そういう時期を経験しないですむ幸運な人もいると思うけれど。

 制作本数が減った2回目は、もうずいぶん前だけれど、そのときどんなことが起きたのか、次に仕事が減るときの参考に書いておきますね。氷河期をどうやって乗り切るのかということね。



 氷河期に、まっ先に原画の仕事を取れなくなったのはフリーでした。はい、みなさんの想像通り「あまり上手くないフリーの原画さん」には仕事の依頼がなくなったんです。仕事が減ったのではなく、まったく仕事がなくなったのです。
 一介のフリーアニメーターであるわたしのところにすら、人づてに「仕事を紹介してくれないだろうか」という話がいくつも来たくらい。

 わたしは「フリー」なので、フリーにはフリーの身の程というものがあると考えているのね。制作が決めた原画班構成には関知しない。社内の人間でも立場的に原画なら、そこへ口出しすべきではないでしょう。
 したがってわたしが制作さんにアニメーターを紹介するのは以下の3ケースに限られる。

1)自分が作監担当であるとき、作品のため、うまいアニメーターに参加してもらうとき。
2)制作さんから頼まれて、条件に合う人を紹介するとき。アニメーターが仕事を受けるかどうかは関知しない。
3)自分より上手い人、あるいは信頼できる監督が「この人は上手いよ。問題も起こさない」と保証してくれたアニメーター。

 そして紹介しないと決めているのは、自分がその人の力量も人間性もまったく知らないというケースです。知らない人を紹介して、作監や制作さんに迷惑をかけたら申し訳ないからです。

 たまに切羽詰まった制作さんから電話で「誰でもいいから紹介して! おねがい!」と言われた場合には「ほんっとうに誰でもいいのね。なんの保証もできないよ」と確認して原画さんを紹介することはあるのココロ。
 もちろんできるだけ上手くて性格のよい人を紹介しますけどね。
 切羽詰まっているときには「紹介してあげた方が親切」なんでしょねーと思ってのこと。
「上手いよ。でも仕事しないから、制作進行にとってはしんどいよ。耐えられる?」と紹介することもあります(^^)


 さて氷河期の話に戻るが、このとき、仕事を紹介してほしい原画さんたちとは、わたしに電話してきたアニメーターの知り合いということになる。電話をしてきた本人が作監クラスの実力は持っていない。作監クラスなら、自分でどこか紹介するものね。
 その電話してくる人が「あんまり上手くない人なんだけど」と頼んでくるわけだから、本当にあまり力のないフリー原画さんが仕事に困っていたのだと思う。

 もとより知らない原画に仕事は紹介しないことにしていたので、きちんとわたしの考え方や、フリー原画には制作が決めた作画班ローテーションに、無理矢理新たな原画をねじ込むことはできないし、立場的にすべきでないと思っているということを説明して、仕事の紹介はお断りした。
 電話をしてきた本人も、じっさいはその辺をわかった上で頼んできているので、みなさん「そうですよね」と理解はしてくれた。
 でも彼らにとっては親しい友人が困っていたのだろうから、つらかったとは思う。


 わたしはそのころ作品制作本数など気にしていなかったし、わたしのまわりでもみんなそうだったから、「仕事を紹介してほしい」という電話がいくつもかかってきて、その時点でようやくアニメ業界全体で仕事が減っているのだということを知ったのだった。
 いまなら毎年ちゃんと動画協会の白書も読むのですが、当時はそんな余裕、わたしにはなかったんですよね。

 ようやく、フリー原画にとってはただならぬ事態が起こっているなと思ったものだから、情報を集めてみた。フリー原画の半数近くが思うように仕事を取れていなかった。結果として、フリー原画の3割近くがアニメーションを辞めていった。まったく仕事がなかったんだもの。

 このような状況下でまっ先に仕事を失うのは「フリーの原画」だということを明確に示した事件だったのよね。フリー原画は仕事量の調節弁でしかないという事実。
 どの業界でも不況の時、まっ先に切られるのはアルバイトや契約社員なので、世間と同じ仕組みが働いたにすぎないわけだけれどね。

 この事件でわたしがもうひとつ学んだことは、作画プロダクションは予想以上に持ちこたえるということだった。
 わかりやすい例を上げると、仕事がなくなり業界を去るしかなかったフリーのAさん、そしてAさんよりだいぶ力量の足りない作画プロダクション所属のBさん、という経験年数の同じふたりの原画がいるとしたら、氷河期に仕事を失うのはフリーのAさんだけなんですよね。
 Bさんはあまり困らない。


 なぜなら制作部がデスクが、そしてプロデューサーがプロダクションを切らないためだ。多少、仕事の量は減るかもしれない。でも切らない。
 制作側の立場から考えると、切らないのではなく「切れない」のだと思う。下請け会社や小さなプロダクションの社長が積極的に営業活動をしていることも理由のひとつだし、いまは仕事が減っているとしても、次の番組改編で今度は制作本数が激増するかもしれないのだから、そうなったときのことを考えたら「怖くて切れない」ということがあると思う。


 若いアニメーターのみなさん、フリーの原画が切られるとき、どういう順番で切られていくのかだいたいわかったざんしょ。
 メインスタッフが切りたがっていた使えない原画、仕事量が極端に少なくなんの戦力にもならない原画、そうういうフリーからまっ先に切られるんですよ。力量があまりにも足りないフリーは、そういうリスクがあることを覚悟しておく必要があるわねん。

 こういうときのためにと、制作から頼まれたら絶対断らず、どんな仕事でも言われたままに手伝っていたとしても無駄ですよ。制作さんはそんなこと、まったくといっていいほど考慮しないから。フリーアニメーターが思うほど、制作さんの価値観、そこにないですから(笑)


 不安なフリーアニメーターは、雲行きが怪しくなってきたら、いそいでどこかの作画会社に入れてもらうといいかもね。


 またこの氷河期には、必ずしも下手な原画から順に切られたわけではなかったね。ケースとしては非常に少なかったのだけれど、行く先々で問題を起こす、制作さんにとっては急性胃炎の原因も切られていました。
 制作さんにとっては、仮にあとで多少困ろうが、いま切らずしていつ切れるのか、という決断だったんでしょうね。


 わたし? わたしは切られなかったわ。こんなふうに好き勝手なことを書いていますけど、わたしの場合は一貫して昔からこんな感じだったので「ああ、また神村がしょーもないことを」とプロデューサーも思っていたじゃないかなあ。慣れちゃっているというか、気にしていないような感じねー。

「またあいつかー」と思わせたら、勝ちなのかもよー(笑)


 つぎの氷河期、知恵を働かせて乗り切ってね。その前に別な氷河期が来ると思わないでもないけどねー。



 ジャックオーランタンと黒猫 ガラス細工

そろそろハロウィン
(これはわたしの大好きなガラス細工シリーズのミニ猫)



3 件のコメント:

  1. こんにちわ、元アニメーターです。でも、動画で辞めてしまったので大したことのないアニメーターでした。
    今でも正直、アニメーションを作る道に未練があります。たとえアニメーターとして大成しなくても、1から勉強し直そうと密かに考えています。偶然アニメーションの道に踏み込んでしまいましたが、今では絵を描くのが好きです。
    神村さんの記事、よく拝見します。経験の浅いアニメーターだったら知る事のない、深い内部の現況を知る事ができ、なおかつ楽しく観させていただいています。

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  2. 初めましてm(_ _)m 

    どうしてもアニメが作りたくて、ド田舎にて、一人で作業しております・・・。
    「アニメーションの基礎知識大百科」 勉強になります。
    アニメを作るのは楽しくて、ちょっと辛いです。
    3分ほどのアニメで燃え尽きました(T_T)

    http://youtu.be/sKYGE6s84lM

    コレが仕事だ・・と、思うと、アニメを制作されてる方は
    大変だなぁ、と、今頃、判りました・・・。

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  3. もうン十年前、某雑誌でコマ漫画を拝見させていただいていました。
    最近のアニメーションのこと…考えさせられますね;;
    放送回によって、作画具合がバラバラな作品もあるのは感じていましたが、現場状況がたいへんなのですね(´;ω;`)
    作画

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