2014年9月13日土曜日

カット数が上がらない理由

●カット数が上がらない理由

 原画のカット数が上がらない理由とはなにか。テレビシリーズを主体に考えてみたい。

 アニメーターは、大量の絵を描いてキャラクターを動かしていく、というその職種的要求として、速く描くことを運命づけられた絵描きだ。
 だが現状、20歳代で「手が速い」原画はめったにいない。潜在能力として速く描ける人は相当数いるはずなのだが、速く描く訓練をする機会に恵まれていない。

 また10年以上のキャリアがあり、どんなカットが来ても、そこそこ描ける原画さんであっても、思うようにカット数を上げられない。それどころか、以前より月産カット数が減っていたりする。
 いったいそれはなぜなのか。

 大きな原因だけ取り上げると、以下のようなことが考えられる。

1)・速く大量に描ける絵ではない。
2)・一度に多くのカット数をもらえない。
3)・スケジュールが短いため、多くのカットを持てない。
4)・一作品に専念できない。
5)・レイアウトが戻ってこない。レイアウト一原の場合はとくに戻りが遅い。
6)・仕事がスケジュール通りに動かないため、時間的無駄が出る。


 ひとつひとつの原因に、本来は複雑で細かな要素が含まれ、精密に論ずるとあっさりブログの域を超え、論文の水準に達するのが明確なため、かなりざっくりと分析していく。
 ではまず(1)から。

1)・速く大量に描ける絵ではない。
 日本の手描きアニメーションのすごいところは、どう見ても動かすことには不向きな線の多いキャラクターを動かしていることだ。このような絵は、画力に関係なく速く描くことができない。
 わたしは作品によって、絵を描くのにかかる時間の違いを計測したことがある。
 しばらくのあいだ毎年、「映画ドラえもん」で原画を担当しており、ドラちゃん以外の時は劇画タッチの作品を描いていた頃だ。どちらもキャラクターには慣れていた。だから線を引く時速は作品が変わってもいっしょだった。
 したがって絵を描くことにおいて、条件はほぼ変わらないと考えてよい。

 ドラちゃんも他作品と同様、映画になると動きと演技、画面内のキャラクター数が増える。1カットの原画枚数は多い。だからカット数はテレビシリーズのようには上がらない。
 とはいえ、絵に慣れているので下描きは速い。

 劇画タッチ作品のほうは線は多いが、下描き時にはラフな絵ですませていたのでこれも描くのはけっこう速い。大きく動いていればなおさらだ。手を動かす時速自体は、慣れた作品であれば絵柄には左右されない。
 劇画タッチの作品で下描きに時間を要するのは、止め絵の時であろうと思う。

 つまり、下描きではドラちゃんも劇画タッチも、1枚にかかる時間に驚くほどの差は出ない。
 決定的な差が出るのは清書時だ。清書時にはキャラクターの「線の総距離÷手を動かす時速」で大きな差が出た。

 ドラちゃんの場合には、清書にほとんど時間はかからなかった。線が少ないから当然だ。そのため、1日5カットのノルマであれば、5カット分の下描きさえ終われば、清書時間は無視できた。下描きが出来た時点で、その日のノルマは達成したようなものだった。

 しかし劇画タッチ作品ではそうはいかない。清書作業に入るととたんに、線の量がそのまま時間の消費量となってくる。「実線の距離+色トレスの距離」で線を引く時間が格段に増える。影&ハイライトは色トレスだが、色鉛筆は速く線を引くことには適していない鉛筆だ。アニメーターなら誰でもわかっていることだが、いわゆる「滑りが悪い」わけですね。
 かつ、思いのほか時間を取られるのが、影とハイライトに色を塗っていく作業だ。
 以前、アニメ業界では、劇画タッチのキャラクターは、基本的にすべてびっしり影がつけられていたので、色鉛筆に持ち替えてからの時間が長かった。速く描くためには鉛筆の持ち替えや、鉛筆を削る回数も減らす必要がある。しかし、それができない。
 がんばって描いても、1枚の清書に15分かかった。1時間に4枚の清書しかできない計算だから、動きや演技を考え下描きをしているほうがはるかに速い。
 そのため、下描きが終わったあと、清書にどれくらい時間がかかるのか予想できない。こういう絵で量を上げるのはむずかしい。

 いまは影の付け方が洗練されてきて、いつでもなんでもびっしり影をつけるという作品は減った。だが萌え系が増えた分、瞳の中がメカのように複雑なキャラクターが多くなり、どれほど色トレスの労力が軽減されたのかわからない。
 原画清書の線が丁寧になったこともあり、1枚の原画にかかる時間は増える傾向にあると思う。

 これでは、いくら速く手を動かす人でも、カット数をこなすのはむずかしい。


2)・一度に多くのカットをもらえない。
 前回ブログの、たくさん上げる方法を試したくてもできない理由だ。

 1作品、1話数の作打ちで「50カットちょうだい」と言っても、まずもらえない。制作さんが怖がって出さない。怖がる理由は、相手の原画さんを信用していないということもあるとは思うが、根本はもっと複雑で、下記に出てくるスケジュールやレイアウト戻しなどとも絡んでいる。

 どちらにしても、原画が上がらなかったとき、50カットのまき直しはきつい。20カットならだいぶ気は楽になると思われる。

 しかし原画の側からすると、20カットしかもらえないと、3話数、あるいは3作品を平行して作業せざるを得なくなり、非常に効率が悪く、なによりスケジュールが読めないという事態になる。
 このような現状でカット数を上げるのは極めてむずかしい。


3)・スケジュールが短いため、多くのカットを持てない。
 2週間のスケジュールでは、いくら速くレイアウトを出しても、待ち時間が発生する可能性がある。4週あれば60カット描ける原画さんでも、2週間しかない場合は20カットしか受けられない。これは原画側から考えた安全策としてそうなる。4週28日間のあいだに3日風邪で寝込んだとしても、残りの25日で挽回できる。
 しかし、2週14日間しかない場合、3日寝込むと11日間しか残らない。1週間7日スケジュールでは風邪などひいている余裕はないということだ。


4)・一作品に専念できない。
 これもカット数を上げるための方法とは逆の状況だ。社内原画の場合は在籍会社の方針に従うしかないが、フリー原画の場合は、収入を増やすために、できるだけ1作品に全力を投じたい。・・・と思ってもできない現実があるのコトよ。
 ここまで述べたように、60カットほしくても20カットしかもらえなければ、3社3作品から20カットずつ仕事を取るしかない。幸い、というかなんというか、選ばなければ仕事はいくらでもある。各社からいくらでも電話は来る。

 そうしたら、数社の掛け持ちをするしかないでしょう。たとえ効率が悪くても、不得意なタイプの作品であっても。

 フリーのアニメーターは、常に潜在的失業状態であるから、いつ仕事がなくなるかわからない。それは困る。とりあえず来た仕事は少しでも受けておき、各社に顔をつないでおきたいと考える。そういう人は多いですよね。当然の気持ちだと思う。

 また、本当に1週間スケジュールの原画仕事っていくらでもあるから、そういうものが次々入ってきた場合、月3作品どころではなく、10作品以上の同時進行という場合すらある。
 わたしは3ヶ月くらい描かないとキャラクターを覚えないという欠陥があるため、複数作品同時進行ということはあまりしないが、最初からそういう状況で原画を始めた人たちは、それが普通だと思っているでしょうね。
 そして「どんなところでも育つ人は育つ」と昔から言われているとおり、新人原画でもこの状況で、何を描いても必ずその作品のメインスタッフに評価される人がいる。新人原画の頃のわたしにはできなかったことだと思う。
 こういう人を見ると、たいしたものだなあって感心します。

 とはいえ、やはり効率はよくないだろうから、収入的には気の毒だ。

 あと、非効率的な複数作品同時進行をしている原画さんには以下のようなタイプもある。

・制作さんに頼まれたら断れない。数カットでもよいからと言われ、気づいたら10作品を超えていた。
 こういう人はフリーに向いていないと思う。管理がまったくできていないものね。制作さんは「この人は断らない」、と知っているから頼んで来るわけ。制作的には間違っていない。
 けれど、アニメーターとしてあなたは便利屋に使われているだけで、おそらくメインスタッフにも制作さんにも評価はされていないと思うのよね。

・少しくらいなら手伝ってもいいよ、と多数の会社から仕事を受けていると、自分が売れっ子のようで気分がよい。
 単なる勘違いですね。「少しなら出来ないこともないけどさあ」なんて言ったら、制作さんはすぐにあなたの使い方を理解する。だって、彼ら彼女ら制作は営業ですもの。いい気になって上から目線でもの申すアニメーターをおだてるくらい、簡単にできますのことよ。

 でも「売れっ子」というのはね、収入が伴って初めて売れっ子といえるわけ。自分の収入を顧みて、早く目を覚ました方がいいと思う。悪いことは言わないから。ねっ!


・1作品だと飽きてしまうので、常に3作品くらいあるのがちょうどよい。
 こういうアニメーターって実際にいるので、この場合は好き好きということかなぁ。仕事の仕方はそれぞれだものね。 


5)・レイアウトが戻ってこない。レイアウト一原の場合はとくに戻りが遅い。
 この問題はあとで掘り下げなければならないと思う。
「レイアウトが1ヶ月以内に戻ってこないときは、原画を引き上げてもらう。スケジュールが立たないから」という話を聞いた。テレビシリーズでね。
 1ヶ月立ってもレイアウトが戻ってこないということは、この原画のスケジュールは最初から1ヶ月以上あったことになりますね。結果論だけれどね。

 わたしは手伝いのバラまき仕事は、知り合いから頼まれた時しか受けない。知り合いからなら、相手がこちらに何を求めているのかわかるから。
 それ以外でのバラまき仕事はこわい。いいものを描ける気がしない。
 ということで、知り合いからバラまき原画を25カットほど受けたとき、原画アップ日にレイアウトが3カットしか戻ってきていなかった、という経験はふつうにありますよ。

 こういうことって、誰がどうすれば解決できるのか。少なくともアニメーター、演出が自分たちで出来ることはないのか。あとで話し合ってみたいと思う。


6)・仕事がスケジュール通りに動かないため、時間的無駄が出る。
 スケジュールを組んだら、スケジュール通りに動かそうよ、っていうのはある。動画は締め切りまで3日間程度、仕上げさんに至っては朝入ったカットをその日のうちにUPさせている。
 その状態が毎日続くということは、どれだけたいへんなことだろう。背景さんも撮影さんもスケジュール通り仕事をしている。このあたりの部署が締め切りを遅らせたら後がない。だから決して遅らせない。

 スケジュールをガッタガタにしている犯人は誰なんだ! ってことよねー。

                   
                                  赤城さん、謎を解いてくれないかなー(^^)


 最後にですが、「フリーで原画を受け、あってないようなスケジュールに振り回されている皆さん」にひとつ助言をさせてほしいのよ。

 それは、「せめて仕事は制作会社から直で取った方がいいと思う」ってこと。

 どう見ても、一次下請け会社、二次下請けプロダクションと降りていくごとに、スケジュールがつかめなくなっていくんだもの。
 作品の全体が見えないからかもしれないね。








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