2014年8月4日月曜日

フリーの条件

フリーの条件

 正確に言うならば

「フリーの原画アニメーターになってもよいと考えられる、絶対必要条件とはなにか」

 ということだ。今回はこの命題について考えてみよう。

 基本的に作画とは、映像産業の多種多様な製造ラインの1部門であるから、アニメーターは制作会社や作画プロダクションに採用されることで、そのキャリア構築のスタートラインに立たせてもらえる。
(※基本論なので、極端に特殊な例は除外して考えてもらいたい)

 短編アート・アニメーションと違い、商業アニメーションはアニメーターが一人で作品を作ることはできず、それぞれのセクションの専門家がよってたかって映像のクオリティを上げていくことで成り立っている。
 したがって新人アニメーターは、その製造ラインに組み込まれることによってのみ、アニメーターという仕事を始めることができ、商業アニメーションに必要な共通言語や基本認識を学ぶことができる。

「フリー」というのは固定の制作会社や作画プロダクションに所属せず、作品ごとに制作会社間を移動する専門家のことで、アニメーション業界には
 監督、演出、原画、動検、動画、仕上げ、背景、美術
等の職種が、過去からフリーとして存在した。以前は撮影台を必要としたため、決してフリーとして存在し得なかったのが撮影職種だが、いまはPC作業なので可能かもしれない。 ………が、フリーの撮影は必要とされていないようにも思う。このあたりはあとで撮影監督さんに聞いてみよう、うん。

 さて、なぜ「フリーの条件」について語るかといえば、いま原画職におけるフリーの割合が多すぎるのではないかと思うからだ。そのため、過去のフリー原画なら当然であった条件が、現状ではまったく通用しない。

【フリーとは、どこへいっても確実に通用するだけのすぐれた実力があり、
                                        各社から指名で仕事がくるアニメーター】

 というのが過去の「フリーの定義」であった。わたしが駆け出しだった頃のフリーアニメーターは、誰もがその名を知っており、圧倒的な実力をお持ちの方々だった。したがってフリーになれるのは、選ばれたごく一部のアニメーターに限られ、その存在は一般のアニメーターにはまぶしかった。

「フリーはアニメーターの花」といわれた所以であったろう。これは高名なアニメーターの言葉だ。

 また、非常に上手いこれも高名なアニメーターから「はじめての会社に行ったときは、俺より上手いやつがいたら出してみろ、って言うんだ。いるはずないからさ」と、聞いた。
 売らなくていいケンカを端(ルビ=はな)から売っているような気がしないでもないが、当時フリーのアニメーターであるということは、それくらいの気概が必要だったのだろうと思う。

 余談だが、わたしは当時東京ムービー(現トムス)に雇われており、アニメーターにとっては神様的存在の大塚康生さんとおなじ会社にいたわけだ(^_^)v こんなことで威張ってどうする(笑)
 駆け出しのわたしと大塚康生さんの実力には当然のことながら、地球から1番遠いULAS J1120+0641クエーサー、288.5億光年くらいの開きがあり、差が途方もなさ過ぎて認識不能状態だった。
 だからわたしは、分け隔てなくヘッポコ駆け出しアニメーターにも親切にして下さる大塚康生さんを非常に敬愛はしていたが、あんまり恐れてはいなかった。差がありすぎるとこんなもんです。
 そんなある日、かの「俺より上手いやつがいたら…」アニメーターが、昼休み時間にムービーへやってきた。何をしに来たのかは知らない。
 わたしが目にしたのは、彼が、たまたま外へ出ていた大塚康生さんを見つけ、かつて目にしたこともない緊張した面持ちで大塚さんに最敬礼している姿だった。言葉を交わすときは直立不動であった。
 相手がただ先輩だというだけで畏れいるような彼ではまったくないから、自分の実力は大塚康生さんに及ばないと明確に認識しており、かつ心から尊敬していたのだと思う。
 彼は帰り際に「大塚さんがいるんだから、よく教わるんだぞ」とわたしに言い置いて帰って行った。
 あなた、そんなまじめにアドバイスをくれたこと一度もないじゃん。だいたい、わたしはまだ大塚さんに教われる水準に達していないよ。………とわたしは思ったが、大塚康生さんのすごさは再認識した。
 当時は大塚さんもフリーだったと思われる。東京ムービーが社員で雇用していたら、社内の給与規定から大きくはみ出る金額を払うことはむずかしかったと思うから。社長がとうしてもと口説いて東京ムービーに来てもらった大塚さんだったのだし。

 元々フリーは高額の契約料を払ってもほしいと会社に思わせるだけのアニメーターのみがなれる労働形態であったのだ。


 いまは誰でもフリーになる。なれる。
 社内で1~2年原画をしたら、フリーになるのが当たり前という感覚だと思う。20歳代~30歳代前半のフリーアニメーターに、フリーでいることの利点やフリーになった理由を聞いてみた。以下に箇条書きする。


・作画プロに所属していると経費を20%も引かれてバカバカしい。損だと思った。

・毎日会社へ通いたくない。自分の好きなときに仕事をしたかった。

・会社にいると、仕事を自由に選べない。しかも会社のつごうで突然ほかの仕事を手伝わされたり、やったこともない作品なのに、間に合わないからと原画のラッシュリテイクを今日中に上げてと言われたりする。便利屋みたいに使われるのはいやだ。

・フリーじゃないと下手だと思われる。早くフリーになったほうがかっこいい。

 このへんが代表的な意見かな。
  では、以下ひとつずつ検証してみよう。



●・作画プロに所属していると経費を20%も引かれてバカバカしい。損だと思った。

 この意見を出してくれた方は、手も速く、原画月産35万円以上は安定して稼いでいたので、20%引かれると毎月7万円になりますね。この人の場合は損だと思う。

 しかし、稼ぎが月15万円くらいまでだと、引かれる経費は3万円程度。場所代(家賃)、電気代、冷暖房代、材料費(鉛筆ほか)等々で作画プロが一人あたりにかけている経費とトントンだと思うので、この金額だと損だとまではいえない感じ。

 そして逆に会社にとって、もっと稼いでくれないと経費も出ないよ、というのが月収10万円以下のアニメーターだ。置いておくだけ赤字なのだが、原画も育てなければならないので、赤字の分は稼ぐアニメーターからの20%で埋め合わせているのが現状だと思う。
 しかし、稼げるようになったアニメーターにとっては確かに損なシステムだから、ある程度会社に新人時代の恩返しをしたら、フリーになってしまうのもやむなしかなあ。もともとの収入が少ないものね。


●・毎日会社へ通いたくない。自分の好きなときに仕事をしたかった。

 この方が言っているのは、おもに時間のことだった。夜中に仕事をしたり、たまには昼過ぎまでゆっくり寝たりしたいとのこと。だからフリーになってからはとても楽だそうだ。

 まあ、皆さんも気持ちはわかるざんしょ? 会社員だと、風邪気味で少し熱があるときでも休むわけにはいかないことってあるものね。自宅で仕事をしていると、風邪がかなりしんどいなぁと思ったら「無理しないでちょっと横になる」ということがすぐできるのは、とってもありがたいとわたしも思ったことがある。


●・会社にいると、仕事を自由に選べない。しかも会社のつごうで突然ほかの仕事を手伝わされたり、やったこともない作品なのに、間に合わないからと原画のラッシュリテイクを今日中に上げてと言われたりする。便利屋みたいに使われるのはいやだ。

 その通りだね。作画プロだと何作品か入っている中から「これがしたい」と多少のわがままを言う余地はあるかもしれないが、制作会社の作画部にはまったくない。次はこれ、と会社が決めた作品をするしかない。
 また便利屋的に使われるのも社内の定め。たしかにアニメーター的には迷惑な話なんだけれど、制作側に立ってみると「このリテイクを本人にもどしていたら間に合わない。なんのために社内作画があるんだ。ピンチの時に会社を助けてくれないなら、社内作画を置く意味はない」と思うだろうね。
 わたしは制作会社育ちで、常に制作のそばにいたから、制作さんの気持ちを少しはわかるつもり。とはいえ、便利屋的な仕事を振られるとやっぱり「え~~~(^_^;)」って、つい言ってしまうんだけれどね。

 社内は作品を選べないと書いたけれど、それが普通だと思うけれど、そして社内はそれでもしかたがないと思うのだが、作画水準の高い作品で有名なある制作会社では、経験の浅い原画にも作品を選ばせてくれるところがある。それが他社の作品でもわざわざ取ってきてくれる。「自分がしたい作品ならがんばるし、原画の覚えもよいのではないか」という理由だそうだ。
 そして、自社の作画水準が高いので、外から取ってあげた作品も必ず上手い作監がチェックしてOKになってから出すとのこと。
 わたしは、まだあまり上手くない原画は、社内の作監と同じ作品を担当したほうが教わりやすいと思ったので、「独り立ちできていない原画に、そこまで自由にさせなくてもよいのでは?」と聞いた。答えは「好きな作品ができないと、辞めてそっちへ行ってしまう」というものだった。
 なるほど、アニメーターって確かにそういうところがあるよねー。うんうん。


●・フリーじゃないと下手だと思われる。早くフリーになったほうがかっこいい。

 そんなことはないでしょ、あーた。と、即座にわたしは思ったが、20歳代でたいしたキャリアもないのにフリーアニメーターの方って多いから、若者のあいだではそういう意識になっているのかな?
 これは20歳代ギリギリで原画経験6年の方の意見です。

 彼に収入を聞いてみたら月収9万円とのことだった。原画経験6年あるなら月収は9万円じゃダメでしょ。かっこよくないでしょう。

 アニメーターは20歳代に仕事量のピークが来るとわたしは思っている。だいたいそんなものだと賛同してくれる方も多い。つまり20歳代でたくさんカット数をこなす経験をしておかないと、その後にカット数を増やすことはできなくなるということだ。
 30歳代から40歳代はアニメーターにとって働き盛りで、ピークの量を維持しつつ、原画の水準を上げ、緻密さを増していく時期だと思う。このことと、仕事量を増やすことを同時にはできない。
 だから20歳代には仕事量のピークを達成しておくべきなんだ。そうしないと将来アニメーターで食べていくことはむずかしい。
 カット数をたくさんこなすのは、それなりに上手くなければ無理な話だから、自分がフリーでやっていける、どんなカットが来ても試行錯誤したりしながらなんとか完成させられるという自信が持てるまでは、できればフリーにならずに、上手い人のそばにいたほうが自分も上手くなれ、結果として速くなれると思う。

 非常に上手いアニメーターに関しては、ひとりで放っておいても自分で勝手にうまくなるのでどうでもよいが、一般的、というか大多数のアニメーターは技術が未熟なうちにフリーになるのはやめておいたほうがいい。特に自宅でひとりというのはとってもマズイ。才能に恵まれたごく一部の人以外、アニメーターはひとりで上手くなることはまずできないからだ。

 いろいろ理由があって、会社を辞めることもあると思うけれど、たとえ身分はフリーでも、上手いアニメーターがいる制作会社に席を借りるといいと思う。

 だいたいフリーになったって、自由に仕事を選べる人なんかごくわずかでしょ? 多くのフリーアニメーターは「断ると次の仕事が来なくなるような気がする」と心配している。来た仕事をしているだけなら、いいように使われているのと同じだよね。



 結論として、フリーになる絶対条件は

「それなりに上手く、どんなカットが来ても作監が困らない水準の原画を描け、プロとしてはずかしくない収入を得るだけのカット数をこなす手の速さがあること」

 だと思う。


 それができたら苦労しないわ、とか言わないよーに。
 大丈夫、本気でがんばればなんとかなるよ(=^・^=) でも無茶しないで、ちゃんと野菜も食べないとだめよ。







0 件のコメント:

コメントを投稿