2014年6月6日金曜日

「振り向き」という演技と動き

「振り向き」という演技と動き

 実写でもアニメーションでも「振り向き」は、頻繁に出てくる動きのひとつだ。

 重要な演技にかかわることも多い動きであるから、なにも考えずに「振り向かせればいいんでしょ」的な、そこにまったく演技が感じられない原画を上げてくるアニメーターは感心しない。上手くいくかどうかは時の運でもよいから、そこになにか「こんなふうに振り向かせようと思って描いたんです」という気持ちが伝わってくる原画は、たとえ失敗していても見ていて楽しいし、原画を描いたアニメーターがよい原画さんになる確率も高いと思う。

 ほかに作監していて困る「振り向き」原画は、作品の傾向を無視し、常に自分が描きやすい慣れたパターンで描いてくる原画ですね。「北斗の拳」で「ドラえもん」と同じふり向きを使うのはバツでしょう。
 このタイプの原画も、慣れたパターンを使って楽をしているだけであり、そこに演技を考えるというアニメーターの基本が抜けている。


 わたしが動画をしていたころ、劇画調の作品でダメな原画の見本として永久保存版にしたいような「振り向きの原画」が来たことがある。バストショットで原画2枚、中5枚、計7枚の振り向きである。
 1枚目の原画は棒立ちで真後ろを向いており、2枚目の原画はやはり棒立ちで正面を向いていた。したがって、動画としては、その間に5枚の中割を入れ、演技も動きも絵も完成させなければならない。
 社内とはいえ、手空き対策で入ったような仕事だったから、絵コンテも読んでいなければキャラクター設定も見ていない。どのような状況で振り向いているのか、横顔がどんなふうになるキャラクターなのかすべてがわからない。

 現在はキャラクターを重視するので、さすがにこのような振り向きで、横顔のアタリが入っていないことはないと思う。

 わけのわからない原画が来たとき動画は、「要するに動けばよい。好き勝手してかまわない」とわたしは思っていた。なぜなら、ほかに出来ることはないからだ。
 原画には描かなければならない必要最低限の絵がある。それが演技に深く関わることがない部分だとしても、原画が責任を持って原画なりアタリなりを入れなければ動画が困るという絵がある。
 この振り向き原画の場合でいうと、横向きの顔だ。

 それを描かなかった場合、結果がどうなろうと原画がとやかく言ってはならない。動かすことも演技させることも放棄して、自分が楽をすることだけを選んだ時点で、アニメーターとしてすでに「自分は一生誰からも尊敬されることのない、ダメダメなアニメーターで終わることに異議はとなえない」という契約書にサインしてしまっているからだ。


 原画を描き始めた頃、わたしは「振り向きっていう動きはかなりの頻度で出てくるナァ」ということに気づいた。そこで考えたのは「同じ振り向きは決して描かない」ということだった。
 同じ演技は二度とないはずであるから、絶対に毎回違う「振り向き」に挑戦すると決めた。パターンで動きを覚えることはしない。常にその状況に合う違う動きと演技を考えて原画を描いていけば、少しはアニメーターとして勉強になるのではないかと考えたわけだ。

 しかし5年がすぎる頃には、特にテレビシリーズにおいて、そうそう違うふり向きは描けないというところへ追い詰められた。したがってその後は、無理矢理違うふり向きを描くという課題はあきらめて、その時々ですなおに振り向きの演技を考えることにした。
 するととても楽になった(笑) 無茶な命題を自分に課すのは、いい加減なところでやめたほうがよさそうですね。


 そのようにいろいろな振り向きを描いてみた中で、印象に残っている実写の振り向きがふたつある。

 ひとつは「エイリアン2」の主人公リプリーが、武器を携帯し船内のエイリアンを探索中、物音に反応して振り向く芝居。リプリー役はシガニー・ウィーバーという女優さんだが、この方は非常に演技がうまい。エイリアンと戦う女性からコメディまで役柄も幅広く、この方ならおそらくどんな役でもこなすのだろうと思われる。


 そのリプリーの振り向きが素晴らしかった。
 強い恐怖心を抱いており、物音に過剰に反応する。だが、生き残るための戦いだから、振り向く動きは非常に速い。そのあたりのバランスが絶妙だった。
 どの程度の動き幅でどういった絵を描けばこの感じが出せるのか、コマ送りで繰り返し見た。


 もうひとつの印象的な振り向きは、「コマンドー」でのアーノルド・シュワルツェネッガーだ。シュワルツェネッガーが両手に武器を持ち、バストアップでこちらへ振り返るカットで、マッチョな男性に特徴的な動きを見せてくれる。

 たとえば私たちなら体より顔がかなり先行して振り向くだろう。しかし、シュワルツェネッガーはそうではなかった。もちろん顔が先行はするのだが、首が硬いため雰囲気としては顔が体ごとグリンと回るような振り向きを見せる。(ちなみにこの作品はターミネーターと違い、人間の役)

 この時の振り返り方は、シュワルツェネッガーの計算された演技によるものではなく、こういう体格の人が振り返ると、普通にそうなってしまうように思えた。
 つまり鋼のような筋肉を持つマッチョな大男を描くときは、そのようにしたほうが感じが出るということで、あまり関節を柔らかく動かすべきではないと、わたしは思ったのだった。

 
 そのキャラクターにピッタリという振り向きが描けたら嬉しいんだけどなー。






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